※CDじゃなくても、ストリーミングで聴ける新作をご紹介します!
2021年9月3日、イギリスのヘヴィ・メタル・バンド、アイアン・メイデン(IRON MAIDEN)の約6年ぶり17枚目のニュー・アルバム『Senjutsu』がリリースされました。
HM/HRシーンにとって下半期、いや今年度最大の話題作の登場です。前作からの間隔が過去最長であり、コロナ禍の困難を挟んでの作品でもあるので、このダウンタイムを使って、メタル界の王者がどういった作品を創り出したのか、いやが応にも注目が集まります。
アルバムタイトルが「Senjutsu(戦術)」ですので、必然的に日本のマーケットでは特別な意味合いが出てきますけど、最初にタイトルと戦国武将に変身したエディの姿を見て、正直いうと日本人の感覚からか「ダサっ!」と思ってしまいました(ゴメンなさい、、)。あとは、グランプリのアルバム「Samurai」をすぐに連想しましたね(笑)。とは言え、個人的にはやはり楽曲と作風こそが大事なので、いかなるコンセプトでもあまり気になりません。
今回、輸入盤発売日である3日未明に、早くもストリーミング、サブスクで全曲解禁されました。日本盤は来週8日発売ですので、最終的には自分の耳で聴いて判断し、フィジカルが欲しい人だけが買えるのは、リスナーにとってはいい時代になったと思いますね。Apple Musicのジャケ画像が、今まで見たことがない動的なヴァージョンになっていて、こちらも目を引きますね。
先行曲でMVもすでにストリーミングで見られる「The Writing on the Wall」は、ウエスタン調でフォーキーな要素もある、これまでのメイデンにないタイプの曲でした。一方で、2曲目に公開された「Stratego」は、比較的コンパクトでそこそこテンポ感のある、メイデン節全開のリードトラック向きな楽曲で、ある程度振り幅のある作風を想像しました。
実際に全曲聴いて見ると、『Brave New World』でブルースが復活してからのメイデンの作風を、今作でも完全に踏襲しているのが第一印象です。ダークで重厚感を感じさせる、ドラマティックな雰囲気が全体を支配し、プログレッシヴに展開しながらも、疾走感やメロディの過度な抑揚を必要以上に抑えて、淡々と延々に進行していきます。
10分超の楽曲が3曲も!あり、全10曲で収録時間約82分ですから、過去数作からも想像がつきますけど、80年代のアグレッシヴな作風は望むべくもなく、どこから切っても2000年代以降に構築してきたメイデン流のヘヴィ・メタルが、どっぷり濃厚に詰め込まれた作品に仕上がっています。アーティストとして円熟の極みに達したメイデン、総帥スティーヴ・ハリスが、今創造し得る全てを注ぎ込んだ力作であるのは、間違いないでしょう。
楽曲クレジットを見ると、デイヴ・マーレイが参加しておらず、ハリス単独作が4曲もあるのが特徴ですね。特にCDのディスク2、最後に収められた怒涛の10分超え3連発こそがハイライトで、今作の色合いを決定づけているように見えます。コロナ禍でメンバー間が離れがちな状況であったり、いつも以上にじっくりと作品作りに没頭できたりといった環境の変化が、今回の作品に大きな影響を与えているのは間違いないしょうね。
プロデュースは引き続きケヴィン・シャーリーが担当していますが、前作よりもサウンドがウォームで厚みがあり(ニコのポコポコしたドラムの音質のせいで、わかりにくいですけど笑)、典型的なメイデンサウンドを維持しながらも、いつも以上に時間をかけた、丁寧な音作りがなされたのが伝わってきます。
ひと言で言えるのが、聴き手に”圧倒的な集中力”を求めるアルバムだということです。ちょうど解禁後の夜中の早速聴いていたんですけど、時間帯のせいもあるかもしれませんが、どこまでがイントロで、どこまでがアウトロかわからない、ゆるーく始まりゆるーく終わっていく、長々した楽曲が淡々と続き、いつしか睡魔を誘発していました(汗)。聴く”戦術”を間違ったのかもしれません(笑)。
こうした作風を冗長で退屈と捉えるか、長尺で聴きごたえがあると捉えるかは、2000年以降のメイデンへの忠誠心の度合いにもよるでしょう。かつての名曲群にあった強烈なフックや、即効性のあるインパクトが正直望めないので、試聴後になんだかモヤモヤした気分になったのも事実です。そういった意味では作風は同じでも、疾走感のある動的な要素も随所に感じられた前作『Book of Souls』の方が、やや満足度が高かったと言えるでしょう。
じゃあ、今作がつまらないかというと、決してそういうことはなく、何度かリピート(やや無理矢理でも)して行くと、耳に馴染むフレーズや、オッ!と思えるパートをどんどん発見できるんですよね。”スルメ系”アルバムの極みというか、何度もいろんなシチュエーションでリピして真剣に対峙してみるのが、正しい”戦術”だと思います(笑)。
そういった意味で、CDのように曲が泣き別れなしで、気軽に全曲スルーで一気に何度でも聴きやすいストリーミング、サブスクに、意外にもマッチしたアルバムなのかも?という気がしてきました。いずれにせよ、ヘヴィ・メタルという音楽の価値を高め、これだけの質感、聴きごたえを与えてくれる作品を創作し続けているメイデンとハリスには、作品の評価とは別の観点で、ただただ畏敬の念しか湧いてきません。
さて、1曲だけ選ぶには本当に不向きなアルバムですけど(笑)、今回ピックアップした「Death Of the Celts」は、ハリス単独作らしい長尺パターンの要素てんこ盛りな、聴きごたえありまくりの楽曲です。個人的には何と言っても、中間部のド派手なベースランのインタープレイがめちゃくちゃカッコよくて痺れます!65歳のベーシストが弾くフレーズとは思えないほど尖っていて最高ですね。
いろんなフィジカルのフォーマットが出ていますけど、もし買うとしたら、ストリーミング、サブスク時代だからこそ、保有する価値が一番高い「完全限定ボックスセット」一択だと思うんですが、いかがでしょう。
聴いてほしい度
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