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【書籍紹介】「プラチナ・ディスクはいかにして生まれたのか / テッド・テンプルマンの音楽人生」

ヴァン・ヘイレンを長年聴いてきたファンであれば、誰もが知る名プロデューサー、テッド・テンプルマン。デイヴ期の作品を一貫してプロデュースしてきた最重要人物だけに、ヴァン・ヘイレンとセットで、5人目のメンバーのごとく浮かんできます。

 

"テンプルマン"という特徴的な名前も相まって、しっかりとその存在がインプットされている割には、人物像や、プロデューサーとしての本当の意味での貢献度や仕事ぶりについては、多くを知り得ませんでした。そんな一番気になるプロデューサー、テッド自らが語った書籍ということで、楽しみながら600ページ弱ある長編ながら、一気に読み終わりました〜。

 

テッドの語りをまとめたのは、「ヴァン・ヘイレンライジング」の著者グレッグ・レノフだけに、内容の濃さは期待通りでしたね。グレッグは作家兼歴史家であり、かつヴァン・ヘイレンのファンであるので、自己満足的な自伝にとどまらず、細かく歴史考証も重ねたうえで、テッドの証言をまとめているのが窺えて、「ヴァン・ヘイレンライジング」同様に、説得力を持ったインサイドストーリーの連続で、読み手に迫ってきます。

 

カリフォルニア・サンタクルーズで生まれた、テッドの生い立ちから語りが始まり、自身のバンド、ハーパーズ・ビサールのシンガー・ギター・ドラマーを経て、次第にプロデュースする側へと移っていく様子が、詳細に描かれていきます。

 

ドゥービー・ブラザーズニコレット・ラーソン、エリック・クラプトンエアロスミスモントローズ、そしてヴァン・ヘイレンを始めとした、自らがプロデュースした多くの著名アーティストとの関わりの様子は、さながら70年代〜80年代洋楽シーンの少なからぬ一片の裏側を垣間見れるようで、当時の洋楽ロックファンならば、間違いなく興味を持って読み進められるはずです。

 

ネタバレなので詳しくは書きませんけど、、中でも、エディ、デイヴとの交わりを中心とする、ヴァン・ヘイレンとの蜜月の日々には、他のアーティスト以上に大きくページが割かれています。誰よりもバンドの内情を熟知したテッドの視点を知ることは、我々ファンが聴き慣れたヴァン・ヘイレンの名作の数々を、新たな視点を持って聴く喜びを与えてくれるでしょう。

 

テッドにとってはデビュー作『炎の導火線』は特別なものであっても、様々なしがらみに巻き込まれた『1984』は、世界的なセールスをあげたにもかかわらず、未だに複雑な思いを残した作品になってしまった事実が、その語りを通じて窺い知れます。

 

逆に様々な環境やら状況が良好で、ヴァン・ヘイレンのレコーディング、プロデュースを素直に楽しめていたのが『暗黒の掟』の頃までだったようですね。一般的な評価では、『炎の導火線』や『1984』などに比べると、コアなヴァン・ヘイレン向きの作品と称されがちですが、当事者であるテッドからの評価は全く異なっている点が、なんとも興味深いところです。

 

その中で、テッドが隠れた名曲として挙げていたひとつが「In a Simple Rhyme」です。個人的にも大好きなナンバーなので、なるほどなあ〜と思いますけど、やはり肝はエディのプレイですね。イントロの12弦ギターの美しい響き、中間部のザ・フーばりの開放的なコード感、そして、その後に続く、コードからは想像がつかないアプローチを見せるソロの音選びと、エディの才能ぶりがこれでもかと詰め込まれています。

 

ヴァン・ヘイレンはもちろん、本書に登場するアーティスト、アルバム、楽曲をストリーミングで聴きながら読み進めると、さらに理解が深まり、テッドがプロデュースした楽曲を多面的に味わえることでしょう。

 

90年代に入り、音楽業界では時代の流れで、業界とはかけ離れた企業が、資本参入し始めます。ワーナーの副社長まで上り詰めたテッドでしたが、彼のように音楽を第一義に考えるような旧態然とした業界人は、たとえレジェンダリーなプロデューサーでも疎まれるようになり、結局、会社を追い出されてしまいます。

 

ビジネスの道具に成り下がっていった、音楽業界の様子をリアルに映し出しますが、だからこそ70〜80年代の洋楽ロック黄金期に、優れた音楽を作るために努力を惜しまなかったテッドの奮闘ぶりには、きっと心に響く何かを感じ取れることでしょう。

 

長編ですけど、ぜひ一度読んでいただきたいと思います!

 

In a Simple Rhyme

In a Simple Rhyme

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