ロシアによるウクライナ侵攻から1週間余り。事態はより最悪の方向で進行しており、もはや出口の見えないトンネルを突き進んでいるようです。。
当然、ロックシーンにもその影響は波及し始めており、先にグリーン・デイがロシア・モスクワ公演のキャンセルを発表しましたが、今度はアイアン・メイデンからも、キャンセルのニュースが入ってきました。
メイデンは5月29日にウクライナのキエフ、続く6月1日にモスクワと、対立する両国において、レガシー・オブ・ザ・ビーストに伴う公演を予定していましたが、こちらをキャンセルした模様です。
ウクライナ、ロシアのHM/HRファンの多くが、このライヴを心待ちにしていたはずです。こうした日常がいとも脆く奪われてしまう現実に、憤りを感じずにはいられませんけど、世界中のHM/HR系アーティストからも、この戦争に対するコメントや、何らかのリアクションが、今後増えてくることでしょう。
改めてウクライナという国がクローズアップされているわけですが、ソ連の崩壊以降、ロシア同様に、ウクライナにもHM/HRバンドが多く誕生し、シーンを形成しています。そうしたバンド達の音源は、ストリーミングでも聴けるものもありますので、ほんの些細なことかもしれませんが、今こそ彼らの作った音楽を聴いて、思いを寄せてみたいと思います。
なかなか実態が掴みにくいウクライナのメタルシーンで、筆者も全く知見に薄いんですけど、今回は名刺代わりに2バンドご紹介しましょう。
まず、最も国外で知名度のあるウクライナのバンドのひとつが、ジンジャー(JINJER)です。2019年には来日公演も行なっていますので、日本のメタルファンの間でも、知っている方は多いでしょうね。作品も当初は国内からの発進でしたが、現在はオーストリアのナパーム・レコーズと契約し、ワールドワイドで作品をリリースしています。
2008年にドネツクで結成されたジンジャーの音楽性は、プログレッシヴな要素もあるメタル・コア / エクストリーム・メタルで、東欧のバンドらしい、ダークでインダストリアルな要素が強く加味されています。女性シンガーのタチアナ・シュメイリュークによる、グロウルとクリーンを巧みに使い分ける唱法と、ヘヴィかつテクニカルなバック陣が一体となった音像は、一聴の価値があるでしょう。
メンバーでベーシストのユージーン・アブダカノヴは、この戦争に際してコメントをいくつか発信しており、この危機に際してバンド活動を休止して国内にとどまり、軍や市民を人道支援する慈善団体で活動しているようです。食料の確保もままならないというコメントから、戦時の困難の中で、バンド活動を放棄して守らなければならないことがある状況が、生々しく伝わってきます。
ちなみにタチアナは、交際相手であるスーサイド・サイレンスのアレックスとともに、南カリフォルニアに滞在しているようですね。
バンドのレーベルであるナパームは、ジンジャーとともにウクライナを支援する資金を作るために、新たなデザインのTシャツを制作、販売しています。
ジンジャーは、昨年11月に目下の最新作である4枚目のアルバム『Wallflowers』を発表しています。
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もう1バンド、私の好きなウクライナのモートン(MORTON)をご紹介しましょう。モートンはマックス・モートン(Vo,G)率いるヘヴィ・メタル・バンドです。マックスは、アーティストというよりも、プロデューサーとしての活躍が有名で、キエフにスタジオを構えています。ジンジャーの初期作はこのマックスがプロデュースしていますし、ウクライナの様々なメタルバンドのプロデュースを行っています。
ウクライナのメタルバンドの多くは、先ほどのジンジャーもそうですけど、東欧独特のダークなエレメントに包まれており、筆者もそうなんですけど、聴き手によってはそれがとっつきずらい要因とも言えます。
その点で言えば、このモートンのサウンドは、美しいメロディが明快な正統派のヘヴィ・メタルで、スコーピオンズやハンマーフォールあたりに通ずる雰囲気がありますね。日本のメタルファンには、間違いなく受けるタイプのバンドでしたが、残念ながらそれほど精力的な活動は行ってきません。
2011年のアルバム『Come Read the Words Forbidden』は、ドイツのAFMレコーズからと、日本盤でもリリースされています。マックスのプロデュース能力は高く、サウンドプロダクションも良好で、西側のメジャーバンドに引けを取らないレベルですね。
ストリーミングで本作もアップされていますので、ウクライナのメタルバンド達が、再び活動を再開できる日を願って、改めて聴いていきたいと思います!
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